薄暗いマンションの一部屋。
先ほど大介を眺めていた「美女」は金色のウィッグと深紅色のワンピースをおろし、緩いルームウェアに着替えて、本来の姿をに戻った。
その人はパソコンで、「薔薇色人生」という大人の女性向けの人気小説サイトを開けた。
サイトの一番目立つところに、彼の作品がお勧め枠を取っている。
その作品の表紙イラストのキャラは、明らかに反町大介という人物の二次元化だった。
【作品詳細】
【タイトル:とある外国留学生が日本のホストクラブでの|冒険談《18R、リアル経験注意》】
【作者:悠子2035】
【ブックマーク:258230】
【85話まで更新】
【最新話:初デートでクラスメイトに遭遇!どうしよう!?】
【見出し:……慌ててて隠そうとしたら、いきなり大介に腕を掴まれて、車の後ろに「ドン」された。クラスメイトたちが遠く行ったのを見て、ほっとした。その瞬間、ほっぺが羽のような柔らかい触感に触れた。大介の囁か耳もとで響いた。「ほっとするのはまだ早いだろ?世間知らずのお嬢様」……】
作品コメント欄で、好評が多数。
【ぎゃあ!大介すてき!絶対トップのホストになる!】
【作者さんはお金持ちのお嬢様ですね、羨ましいわTAT私も一度、あのように大介と遊びたい……】
【本当かどうかわからないけど、続きが気になる!】
【本気になったらだめだと知ってるけど、大介は特別!!】
【みんな!あのQueen's Palaceを見つけたよ!】
【本当!?本当に大介がいるの?見に行きたい!】
【この週末に行くつもり!一緒に行きたい方はDMでお願いします!】
「よし、コメント誘導もうまく行っている」
作者「悠子2035」こと、有川悠治は陰険な笑みを浮かべた。
「もうすぐだ。お前は天国から地獄へ落ちる気分を味わう」
「俺の大事な妹を傷付けたクズ男、お前だけは、絶対許さない……」
半年前に遡る。
その時の悠治はただの売れない引きこもりオタク小説家《自称》だった。
ある日、いつものようにベッドでごろ寝しながら文句を付けている。
「おかしいな……転生、魔王、勇者、ハーレム、グルメ……人気要素を全部突き込んだのに、なんで人気が出ないんだ。人気になりたいならゴミでも流行っているもんを書けっていうのは、やっぱり嘘だよな……派手なプロモーションがないと……」
前向きな考えが現れたのは一瞬だけ。
悠治はごろっと寝方向を変えて、ぱっとその考えを打ち消した。
「まあ、いいか。プロモーションはエネルギーを使うし、宣伝をかけるほどのものじゃない……」
もうひと眠りをしようとしたら、扉が壁にぶつかる「ドン」の轟音と共に、ある美少女は部屋に飛び込んできた。
「お兄ちゃん!!」
「雪枝!?」
さっきまで死んだ魚の目をしていた悠治は少女=妹の雪枝を目にしたら、さっそくベッドから飛び上がった。
「ど、どうした?」
雪枝は悠治の胸元に飛び込んで、大泣きした。
「彼…彼はずっと私騙していた!学校の、先輩じゃないの……本当は、ホスト……全部、全部嘘なの……!」
「彼って誰だ!?どこのホスト!?話して、怖がらないで!お兄ちゃんがいるから!」
雪枝は携帯を出して、とある写真を悠治に見せた。
その写真に映した男は、大介だった。
雪枝と正樹の話が終わってからもう30分が経ったのにも関わらず、悠治は石化状態のままだった。おかしいことにも、大介が雪枝と正樹を見送った。帰る前に、雪枝は大介と連絡先を交換し、「今の私じゃだめだから、代わりに、お兄ちゃんを見ててくれませんか?」と頼んだ。(何故オレはそんなことを承諾したんだ……?)大介は頭を抱えながら、部屋に戻って、石化中の悠治と対面した。でも、悠治はこのまま再起不能になったら、その小説は放置される危険がある。名誉回復は難しい。(そう言えば、あの小説の描写が気になる。)知り合いじゃないのに、コーヒーの好み、電車を待つときのくせい、よく寄っている洋服の店、行きつけのレストラン、サロン……全部当たった。ひょとしたら、誰かを雇って、ストッキングしているかもしれない。(念のため、それも聞いたほうがいい)「おい、シスコン」「……」「小説の件、どうするつもりだ?もうわかっただろ?オレに関係ないことだ」「…………」パタンと、悠治は仰向けに倒れた。「おい!死ぬな!どうしてもなら、オレの名誉を回復してからにしろ!」大介はさっそく悠治の頸の脈を確認した。「救急車を呼ぶか……」大介は携帯を出したら、悠治の喉から声が漏れた。「………………無理だ……もう終わった……俺の人生は……」「シスコン人生なんか知らないけど、こっちの人生まで台無しにするつもりか?お前が何もしないなら、本当に訴える。そうなれば、賠償金も取られるぞ!」
「雪枝を傷付けたことに、深くお詫びを申し上げます!」正樹という男性は悠治に向けて土下座した。「すべては、俺の弱さのせいです!雪枝のことが本当に好きです。好きすぎで、軽蔑されるのが怖くて……付き合いが長ければ長いほど、本当のことを言えなくなったんです」「本来なら、今年いっぱいで現在の仕事をやめて、花屋を開くつもりでした……」憎しみの標的がまだ大介から正樹に転移できていない。悠治は半分浮いている状態で続きを催促した。「で、開いたら?」「開いたら、いままでのことを雪枝に謝罪して、そして、プロポーズ……」「プロっ、ポーズ――!?」その単語で、悠治の魂はやっと完全に体に戻った。「あんな酷いことをあっさりとやり過ごして、その上に、恥知らずにプロポーズするつもりか!」悠治は正樹の胸倉を掴んだ。今でもその顔を殴ろうと拳を上げた。「やめてくださいお兄ちゃん!正樹はもう十分反省してるの!」雪枝が慌てて二人の間に入って、悠治の理解不能な目線の中で正樹を庇った。「……」傍観者の大介はもう事情を理解した。雪枝と正樹の間の問題はもう解決済み。二人は兄に認めてもらうために来たんだ。こんなつまらない恋人喧嘩のために、自分が巻き込まれて、クズ男としてネットにさらされたとは……馬鹿馬鹿しい。「あの日以来、Jellyが会社で私の悪口を広めていて…とても辛かった……正樹は私のために、わざわざ私の上司に会いに行って、みんなの前で私を庇ってくれたの。花屋のことも本当よ。去年の春に、私の大好きなクチナシの畑を買ってくれたの!だから、私、正樹のことを信じる!」正樹も顔を引き締めて、真摯な態度で悠治に語る。「悠治さん、信じてくれないかもしれないけど、俺、初恋の彼女に六股されたことがあります」(すごいな!)と大介は思わず感心した。(「暴け!六股彼女の秘密」というコメディー風の謎解きゲームを作ったら、斬新かもな……そんなことを考える場合じゃないか……)「あの子はホスト遊びが大好きでした。だから俺は、ホストになれば、ああいう女に復讐できると思って、大好きなバレーボールを諦めて、ホストになりました」(なるほど、その6股がバレーボール主力6人全員ってことか……)(ちょっと待って、バレーボール選手だったのに、なんでスポーツ屋じゃなく、花屋を……そんなことを考える場合じゃない
「どうして、ここに……!?」悠治が化け物でも見た表情で声を漏らした瞬間、大介は正しいところに来たと確信した。「お前は、あの留学生ホスト小説の作者か?」「な、何が留学生ホストだ!知らないぞ!」悠治は扉を閉めようとしたが、大介が一歩早く体で扉を塞いだ。「知らんぷりをしても無駄だ。警察を呼ぶ」「け、警察を呼んでどうするんだ!」向こうが不法侵入なのに、怯んだのは悠治のほうだ。(ちくしょう、しっかりしろ俺!雪枝を騙したクズ男が目の前にいるのに、なんでなにもできないんだ!殴りくらいしろ!)悠治が戸惑った隙に、大介は部屋に侵入した。「失礼」「おい!待って!」大介はゴミだらけの部屋を見まわして、机で光っているパソコンにロックオンした。さっそくパソコンの前まで歩いて、モニターに映している文章を読んだ。【大介は顎を私の鎖骨に貼り付けて、息を吹くような声で囁いた……「俺のことが嫌いだったら、いつでも押しのけてくれ……でも、すこしでも俺にその気があるのなら、俺は待つよ……俺を完全に信じる前に、ずっと待っているから……」】「!!?」【……これから何が待っているのか、もう覚悟している。でも、今の私にとって、大介よりも大事なものはない!目を閉じて、初めての欲情が含まれたキスを受け入れた……】「!!??!!」年齢制限のレベルがどんどん上がる文字に、大介の怒りもどんどん上がっている。もう見てられない!とちょっと目を逸らしたら、机に置いてある乱れた文字で書かれたノートが目に入った。【あの夜から、大介の態度が変わった……】【ほしいのは私じゃない、私のお金だと、大介が開き直した……】【久しぶりに経験のない子とやってみたいと大介が……】【大介は私の名義で、高額な謝金を……】【送られたのは、大介がほかの女子とのラブラブ写真、その中に、私の親友もいる……】「!!!」頭の上で噴火した大介は右手でパソコンのデータを削除して、左手でノートをごちゃごちゃにした。「な、なんてことをした!!」悠治は前に出てノートを救おうとした。「それはこっちのセリフだろ!!オレになんの恨みがあるんだ!なぜオレを無知の少女を騙すクズ男に書いたんだ!」大介は身長を利用して、ノートを悠治の届かない高さに上げた。「それはお前の本性だろ!本当のことを書いて何が悪いんだ!?」(し、しま
時間を現在に戻す。Queen's Palaceの支配人のオフィス。大介とナイスバディの美女支配人は見つめ合っている。大介がクラブの人気ホストになったことに、二人とも困惑だった。「ええと、小説?……日記?」支配人は細い眉をひそめた。「ああ、お店の客さんたちから聞いた。何かの留学生が書いた日記か、妄想小説のようだ」「で、その小説で出たクラブの名前はうちのと同じだから、お客さんたちはあなたをあてに来たっということ?」「その小説を知っている!」支配人の隣にいる本物のホストは説明に入った。「最近、お客さんたちの間で話題になったらしい。うちにその『大介』がいないか、何回も聞かれたんだ」ホストは不思議そうに大介をもう一度見た。「いや、でも、本当に小説キャラとそっくりだな!」「それが一番わからないところだ……」大介は頭痛を感じた。一体誰がこんないたずらを?知り合いの中でこういうことをする人がいないと思うが……「へぇ、エイちゃんはそれを読んだの?」支配人は興味津々に目を瞬いた。「一応、勉強として」「おもしろい?」「女性ならはまると思う!うちの悪口も一切していない」「なるほど、リンクそ送ってね」「了解!」「コッホン」大介は咳払いして、二人を呼び戻した。「とにかく、うちは一切関与していないわ。大介さんは誰かに恨まれた覚えがないの?」支配人は白を切った。「俺が、恨まれた?」「だって、あの小説が人気になっても、うちにデメリットがないでしょ。むしろ、宣伝してくれて、大歓迎だわ。今一番困っているのは大介さんでしょ?」「……確かに、どう見ても、俺当てのようだ」「そうそう、いい解決方法を思いついたわ」支配人は人差し指を立てた。「大介さんがうちに入ればいいのよ!そうすれば、うちだけじゃなく、大介さんも儲けるわ!」「結構です」おしゃれ女子たちに囲まれたせいで現れた蕁麻疹はまだ完全に消えていないというのに……「あら残念、気が変わったら、いつでも来てね~」支配人はウィンクで大介を送り出した。大介はざらっと例の小説を読んだ。その自分と同じ名前と外見を持ち、世間知らずの少女にセクハラレベルのちょっかいを出す恥知らず男がムカつく。そして、なんとなくその男には良からぬ展開が待っているような悪い予感がする。もしそうなったら、またリアルに自
有川雪枝、兄の悠治に守られ、大事に育てられた天真爛漫な美少女。一流大学を卒業後、志望のファッションサイトで働くことになった。その無邪気な性格とルックスですぐ会社の人気ものになり、楽しい毎日を送っている。しかし、他人のいい性格とルックスをいいと思わない人も存在する。会社の懇親会で、雪枝は三年も付き合っていた彼氏の写真を同僚たちに見せた。「かっこいい!」「雪枝と似合ってる」など褒め声の中で、密かに不愉快を思う人がいた。会社の契約モデルJellyだった。Jellyはもともと雪枝の人気に不満を持っていた。いい環境で育てられ、いい大学を卒業、おまけにかわいい、そんな子にかっこいい彼氏がいるなんて、良い男を掴めるのに苦労している彼女にとって、とても受け入れないことだ。でも、雪枝の彼氏の写真を見て、Jellyは妙なことに気づいた。その彼氏は、Jellyがいつも行っているホストクラブQueen's Palaceのホスト・正樹と瓜二つだった。数日後、Jellyは雪枝をショッピングに誘った。忘れものを取りに来るという言い訳で、雪枝をQueen's Palaceの階段の入り口で待たせた。やることのない雪枝は通行人たちのファッションをチェックしていた。そこで、コンビニの外でコーヒーを飲んでいる大介のコーディネーションに惹かれて、思わず写真を取った。まもなく、Jellyは上がってきた――雪枝の彼氏正樹の腕を抱えながら。対面した瞬間、雪枝も正樹も驚きで言葉が出なかった。Jellyだけが楽しそうに「まさちゃん」のことを紹介して、一緒に正樹の客にならないかと雪枝を誘った。雪枝は頭が空白のままでその場を逃げ出して、兄の家に駆けつけた。「大学の図書館で知り合いになったの……仕事なんて気にしないのに、どうして、どうして3年間も嘘を……私に言ったこと、全部、全部嘘なの……」泣き崩れの妹を慰めているうちに、悠治も泣きそうになった。(俺が引きこもりで売れないクソ作を書いている間に、雪枝は彼氏ができたなんて……しかも、3年も交際してたのに、俺、全く気付いていないとはTAT)(だから、雪枝はやすやすと騙された……すべては保護者の俺の責任だ!)「雪枝、泣かないで!お兄ちゃんは仇を取ってやるから!」悠治は拳を握り締め、雪枝の剣となり、盾になることを誓った。でもすぐに、
薄暗いマンションの一部屋。先ほど大介を眺めていた「美女」は金色のウィッグと深紅色のワンピースをおろし、緩いルームウェアに着替えて、本来の姿をに戻った。その人はパソコンで、「薔薇色人生」という大人の女性向けの人気小説サイトを開けた。サイトの一番目立つところに、彼の作品がお勧め枠を取っている。その作品の表紙イラストのキャラは、明らかに反町大介という人物の二次元化だった。【作品詳細】【タイトル:とある外国留学生が日本のホストクラブでの|冒険談《18R、リアル経験注意》】【作者:悠子2035】【ブックマーク:258230】【85話まで更新】【最新話:初デートでクラスメイトに遭遇!どうしよう!?】【見出し:……慌ててて隠そうとしたら、いきなり大介に腕を掴まれて、車の後ろに「ドン」された。クラスメイトたちが遠く行ったのを見て、ほっとした。その瞬間、ほっぺが羽のような柔らかい触感に触れた。大介の囁か耳もとで響いた。「ほっとするのはまだ早いだろ?世間知らずのお嬢様」……】作品コメント欄で、好評が多数。【ぎゃあ!大介すてき!絶対トップのホストになる!】【作者さんはお金持ちのお嬢様ですね、羨ましいわTAT私も一度、あのように大介と遊びたい……】【本当かどうかわからないけど、続きが気になる!】【本気になったらだめだと知ってるけど、大介は特別!!】【みんな!あのQueen's Palaceを見つけたよ!】【本当!?本当に大介がいるの?見に行きたい!】【この週末に行くつもり!一緒に行きたい方はDMでお願いします!】「よし、コメント誘導もうまく行っている」作者「悠子2035」こと、有川悠治は陰険な笑みを浮かべた。「もうすぐだ。お前は天国から地獄へ落ちる気分を味わう」「俺の大事な妹を傷付けたクズ男、お前だけは、絶対許さない……」半年前に遡る。その時の悠治はただの売れない引きこもりオタク小説家《自称》だった。ある日、いつものようにベッドでごろ寝しながら文句を付けている。「おかしいな……転生、魔王、勇者、ハーレム、グルメ……人気要素を全部突き込んだのに、なんで人気が出ないんだ。人気になりたいならゴミでも流行っているもんを書けっていうのは、やっぱり嘘だよな……派手なプロモーションがないと……」前向きな考えが現れたのは一瞬だけ。悠治はごろっと寝方